Blog / 木村智明のブログ
2017年7月25日

ピアノのはじまり

IMG.JPG

プロフィールの中に年表を作っていただいて、この数ヶ月間色々なことを思い出したりしている。長い間忘れていたことを、ついこのあいだのことのように振り返れるのは楽しい。ピアノのレッスンに通い始めた今から遠い日のことなども。

  うちから10分ほど歩いてみじかい坂を登って先生のうちにつく。ドアを開けて「こんにちは」という。先生は聞こえないのか返事がない。「こんにちはぁ」と何度も小さな声で言っているうちに、じぶんの言っている「こ」「ん」「に」「ち」「は」の順番が間違っているかもしれないと心細くなる。

 そうだ、もう一度「出直してみよう」と思い、そっと扉を閉めて庭を引き返し門を出る。

 全てをやり直す。またドアを開けて「こんにちはぁ」と今度は大きな声で言ってみる。すると先生が「はーい」と返事をしてくださったり、先生の旦那様が笑顔でむかえてくださったりして、一気に不安が溶け、時間がまた普段の色を持って動き出す。

 川があって山が見える風景を見ながら先生のピアノを弾く。音も大きくて、丸くて、それはそれは良い音がする。少し古い感じの綺麗な濃い金色をしたメーカーロゴも素敵に見える。「うーん、なんだかうちのピアノよりやっぱりいい音がする」などと朗らかな気持ちになる。

 先生が持っている沢山のレコードも聴かせていただいた。透明の赤いレコードなんかは特に素敵だった。ギーゼキングかバックハウスか忘れてしまったけれど、モーツァルトのソナタ集で先生の機械の回転数が速めだったのかピッチも少し高い。そんなことでさえも、見たことのない素敵な世界の色が加わって聴こえる。自分でも少し弾いてみて「やっぱりレコードの人みたいにはいかないもんだ」などと感心する。

 理屈は何もなく、未知なる将来だけがある世界。

 あの頃の自分と音楽の関係に、いつの日か自分を戻してあげたい。